Nagao Jun – 長生淳

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トリトン

  • ●原題:Triton
  • ●グレード:5
  • ●演奏時間:約17分
  • ●第46回定期演奏会

作曲者・長生淳は1964年に茨城県で生まれ、東京藝術大学を卒業、同大学院修士課程を修了。大阪市音楽団(現オオサカ・シオン・ウィンド・オーケストラ)からの委嘱作品『交響曲』を皮切りに、多くの吹奏楽編成の作品を発表し、高い評価を得ている。主な作品として、『紺碧の波濤』『時に道は美し』『パガニーニ・ロストイン ウインド』、そして過去に当団がとりあげた『楓葉の舞』などがあげられる。

本日演奏する『トリトン』は東邦音楽大学の学園創立70周年記念として委嘱を受け書かれたものである。同大学は学校法人三室戸学園に属していることからこの曲には

  • “3”楽章構成
  • “3”全音の音程の動機ではじまる
  • 「ミムロド」を読み替えて導きだしたミ-シ-ドという音型を循環主題的に用いている

といった趣向がもりこまれている。題名となっている『トリトン』は三全音(英語でtriton)から発想された。3全音とは、音楽における音程の1つである。トリトンはギリシャ神話に登場する半人半魚の海神で、同じく海神であるポセイドンの息子である。海神トリトンは、不思議な力をもつ法螺貝を用いて海流を変えたり、波を立てたり鎮めたりすることができる。この曲は、海・波のイメージをもとに、海が見せる様々な表情や変化を現代社会に見立て、それに立ち向かい、旅立っていく若者の様子が描かれている。

(以下、「」内は作曲者による解説)

第1楽章

「1楽章はとくに海のイメージを強くもって書いた楽章で、逆巻く波に学生達がこれから立ち向かうであろう社会の荒波を重ねたものですが、あらためて聴き直してみると、むしろ向かっていく若者たちの力強さ、といった見方もできそうです。いずれにしても、演奏にあたっては「うねり」を意識して戴くとよいのでは、と思っています。」

ホルンとトロンボーンによる力強いファンファーレで曲は幕を開ける。このファンファーレの旋律は1楽章の中で形を変え、何度も現れる大切な主題である。緊張感を保ったまま高音楽器にファンファーレは受け継がれ、流れるような旋律が楽器の数を増して現れる。そして、荒れ狂う波を表現する快速部分に突入し、複雑なリズムと様々な音色が入り混じり、まるで海のように様々な表情が見られる。最後まで勢いが衰えることなくダイナミックにこの楽章を終える。

第2楽章

「2楽章は、荒波そのものといった感のある1楽章のあとを受け、静まった海のような趣です。と同時に、落ち着いた学園の中、そして学んでいる人の心の内面、といったところに視線をむけて書きました。音楽に携わる喜び、ふとよぎる不安や孤独、仲間達の奏でる音……。そして新しい展開の予感とともに楽章を閉じます。」

2楽章は打って変わって穏やかな波紋が広がるような下降系のベルトーンから始まる。叙情的なクラリネットのソロのある中間部から、舞台上のコルネットと遠くから音が聞こえるよう工夫されたトランットによる三連符の掛け合いを経て、雄大で包み込むような旋律へと発展していく。

第3楽章

「3楽章は、社会の荒波をあらわした1楽章、静かな学校の内側のイメージの2楽章を受け、学校から荒波の中の航海へ旅だっていく若者達を応援し、学んだ音楽の力で少しでも荒波を鎮めてもらいたい、という願いをこめた楽章になっています。」

第3楽章は12/8拍子で進行する。様々な楽器によって表現される「うねり」が徐々に厚みを増し、やがてトゥッティへと続く。そこから高らかに若者への応援歌が奏でられ、一旦テンポが落ちた後、大変ドラマティックなエンディングを迎える。

作曲者・長生は東邦音楽大学の学生へのメッセージとして「音楽と、いい友達になりましょう。楽しい仲間・遊び友達ではなく、つらい時には支えてくれるような親友に」と記しており、この曲に込められたメッセージと共通するものが見られる。私たちは、このメッセージを受けとめ、音楽と触れ合える喜びをかみしめながら演奏したいと考えている。

自分たちを含めた、すべての方々の応援歌となるようなこの曲を、最後までお楽しみいただければ幸いである。

(第46回定期演奏会)

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